シドニー生活

中年研究者のお話

やり口

実質辞める宣言をした少し後、元指導教官があるメールを転送してきた。

転送メールは、元指導教官がプロジェクト1のメンバー全員(CI17名、AI3名)に送ったメールで、PMが辞職し8月にプロジェクトを去ることを知らせるものだった。私はプロジェクトメンバーのメーリングリストに名を連ねていないので、元指導教官が個別に送ってくれたのだ。

 

メールの冒頭にはこれだけしか書かれていなかった。↓

Please see the e-mail below which I have just sent.

 

元指導教官はずるい。自分のコメントは0、ただメールを転送しただけ。

元指導教官は思ったはず。PMの辞職を聞いたら私が大変驚いてすぐに元指導教官へ連絡してくると(いつも私は元指導教官に優しかったから)。私とコミュニケーションを取りたいのが見え見え。だけど私はこの転送メールを無視。

残念だけど、元指導教官の思う様にはならない。だって私はPMが退職願いをだしたこと友人から聞かされていたので知ってたのです。なんなら友人から聞かされた時も全く驚かなかった。私は3月頃からPMが辞職するような気がしていたので想定範囲内。PMは私の想像より長く働いたくらいだ(頑張って耐えたとおもっている)。

 

 

少し話がそれるけれど友人の話をすると、、、

元指導教官は現PMが辞めるにあたり次のPMを探していた。そして私の博士課程時代の友人S(スリランカ人)にも声をかけた。

Sは卒業後、パブリックヘルスで4年間ポスドク、その後はメディスンでPMをしている。そのプロジェクトは10年契約で、CDCが世界21か国に同時で実施しているプロジェクトなので予算が20億?15億?忘れたけど記憶できないほどぶっ飛んだ予算だった。オーストラリアはベトナム研究を担当している。

そんな順風満帆なSに、元指導教官はプロジェクト1で2年契約(最大2.5年)フルタイムのジョブオファーをだした(フルタイムのポジションがPMポジションであることを隠しフルタイムとだけ伝えた)。10年契約の世界のCDCが手掛ける国際研究と、2年契約の沈没寸前オーストラリアン研究、どちらがSにとって良いかなんて言わずもがな。だけど元指導教官は、NOと言えないアジア人に優しい口調でせまったのだ(その間2か月)。そして元指導教官は友人Sに極秘中の極秘のオファーだ、誰にも話してはいけない、Sは一人で決めるようにと。

 

悩んだSは極秘中の極秘案件にもかかわらず、元指導教官の元で学生をし、卒業後も一緒に働いている私に聞かない手はないと相談したわけ。

 

元指導教官はずるい。Sのもってる10年契約に対抗するため、「最大2.5年しかプロジェクト1で雇うことができないが、スクールでSがスタッフとして働けるように働きかける」と、できもしないことを言っていたのだ。

 

はっきり言っておくが、元指導教官はスクールのヘッドだけど、アカデミアの枠を作ったり、アカデミアを選ぶ権限はないのだ。働いたことがある人に推薦状を書いてあげることはできるけど。

5年前のFacultyの合併以降、私の知る限り正規でパーマネントのアカデミアはこの6年は募集していない。スクールの予算は年々削られ、むしろ人員カットを続けている。仮に募集があってもオナーズ出身のPhDホルダーが選ばれるだろう(私の予想)。

 

私はSと約6年の付き合い。だけど私はSに一度も元指導教官の悪口や真実を言ったことがなかったのだ。口にしたことと言えば、指導教官は忙しい人なのでメールのレスポンスが遅い、原稿のコメントが返ってこない、ありがちなことしか口にしていない。つまりSは残念なことに表面上のフレンドリーでとてもやさしい元指導教官の姿しかしらないのだ。

友人Sのキャリアにも関係する重大なことなので、Sに私がみてきたことを伝えることにした。プロジェクト1が開始3か月ですでにデータコレクションが大失敗していること、元指導教官は仕事をしないこと、私がプロジェクト1のオーサーシップも3月以降の給料も未払いなど、少し博士課程時代のことも含めた。

 

Sはショックを受けていた(そりゃそーだ笑)。

Sが特に驚いたのは、むしろ私は元指導教官からチャンスを与もらい、特別扱いされてラッキーだなと思っていたらしい(笑)。いやこの6年間、泥水のみながらひたすら私が元指導教官をサポートしてきたのが大半なんだけど(笑)。

 

え?留学生たちが元指導教官に憧れを抱いているのにわざわざ夢を壊すようなこと言えるわけないやんね。実際は「元指導教官は自分のとってメリットがある人にフレンドリー」とローカルの先生たちがいっているとことも言えないし、私の見る限り「仕事ができないのでスクール内で超絶に嫌われている」とも言えるわけない。

これは博士課程に関係なく、そもそも上司の悪口を外で言う必要はないよね。悪口言いふらす時間があるなら、それは自分の時間にあてたい。悪口言いふらす時間があるなら仕事ができない上司をどうハンドリングするか考える時間にあてたい。私はなるべく相手の良いところを見て仕事をしたいタイプ。一方でSは博士時代ひたすら自分の指導教官の悪口を言ってた(笑)。

 

話がどんどん脱線していってしまうが、なぜ元指導教官が他の先生の下についている留学生に超絶やさしくするか?私の解釈だと、彼らが母国に帰った後、ゲストスピーカーや共同研究者として元指導教官を招待する可能性があるからだ。

スクールの留学生の大半は発展途上国出身。大学にいる留学生は博士取得後母国へ戻り出世が確約されているエリート集団ともとらえることができる。現に、先月は招待されてビジネスクラスでマレーシアへ。昨年はブラジルへ招待されていたがビジネスクラスではなかったのでキャンセル。直近1年で3本の博士論文の査読(学術論文の査読が無料なのに対し、博論の査読は有料)。これらすべて指導教官として直接かかわった留学生ではなく、副指導教官またはただの学生として知り合った留学生からの依頼。なぜ知っているかというと元指導教官が自慢げに詳細を話してくるから(笑)。こんな自慢話を永遠と6年聞かされてきた私は、オーストラリア人上司とていらぬ話をされるときは笑顔のまま右から左に話を流せるようになった(これもまた修行だね)。

 

話を戻すと、Sは元指導教官のジョブオファーを断り、その後私はプロジェクトを去ることになった。

少しすると、友人Sがややパニック気味で連絡してきた。あって話を聞くと、元指導教官はSを緊急で呼び出し、これは極秘中の極秘案件で俺とお前しかしらないんだと数回念を押したあとでPMの辞任を伝えたそうです。そしてSに「俺ならお前をプロジェクト1の次のPMにノミネートできるぞ」と伝えたらしい。

 

Sは動揺しているけど私は冷静だ。

 

元指導教官のやり口は毎回同じなので想定範囲内。だけどもパニック気味のSをみているとだんだん元指導教官に怒りがわいてきた。

 

元指導教官の巧妙な言葉のチョイスでマジックにかかった友人の洗脳をといてあげる。

プロジェクトのPIは元指導教官だから人事の決定権を持っているのは当然。「俺ならお前を」という表現は大げさ。

「ノミーネート」と言っても、別に候補者がいる中でSを選んだわけではない。ノミネートと言えば響きはいいが、これはただのインターナルオファーのこと。今回のシチュエーションを考えると特別なジョブオファーではない。プロジェクトはすに始まっているため、一からオープンポジション(プロセスに時間がかかる)で募集をせず、候補者を探してインターナルオファーするのは自然な流れ。「ノミネートできるのは俺だけだぞ」ではなく、「全然後任が決まらないので唯一ごり押ししたら落とせそうな外国人Sに辿り着き、必死になってインターナルオファーをしている」が正解。

そもそも元指導教官はPMが辞めることをSに隠し、PMポジションではなくフルタイムと伝えてオファーを出した(PMが辞職することを誰にもばれたくなかったからだと思う)。Sが思うほど元指導教官とSには信頼関係成り立ってないよって。

そして最後にもう一度大事なことを説明する。プロジェクト1が終わったあとにスクールのパーマネントのポジションがもらえる保証なんてなにもないこと。

 

やり口が宗教の勧誘に近いものがある。最後にSは正気にもどったのでよかった。10年契約のCDCが実施する国際研究と2年契約のオーストラリアン研究を比べてはいけない。Sは子供5人いるので、家族を養うためにも10年契約の仕事を頑張ってほしいのだ。あれ以来Sから連絡はないので元気にやっていると信じたい。

 

まとめると、元指導教官は1週間以内に3回のリジェクトを受けたことになる。Sがジョブオファーを断り、私がプロジェクト1を去り、PMが正式に辞職した。再びSがジョブオファーを断った。あっ、4回リジェクトだね。

 

 

超長いブログで申し訳ないけど、次が今回のブログのオチになります。

 

プロジェクトを去るメールを出して以降、私はPMと連絡をとっていなかった。精神的にプロジェクト1の話をすることが難しかったこと、政府の報告書提出の期限がせまっていたので心に余裕がなかった。精神的に不安定ななかで他の業務に支障がでないようにするのでいっぱいいっぱい。

 

無事に報告書提出が完了した後、幸いにも元指導教官のメールでPMの退職日を特定することができた。退職直前にPMに連絡をいれ、8月16日水曜に直接会ってお礼を伝えギフトを渡せた。

PMと今まで話せなかったことを話したことで、私の心はこの日以降、いっきに軽くなったのだ。

 

だけどこの時、PMは雑談のつもりでサラっと話した内容が私には想像を絶する内容だった。

 

PMは

オーサーシップを

持っていない。

 

たった一人でプロジェクトの準備や運営をしてきたMPがなんでオーサーシップないの?怒

起きていることが理解できない私。辞職するからオーサーシップがなくなるのではなく、最初からオーサーシップがないらしい。

PMの「辞職したけど論文のacknowdgeには私の名前が入ると嬉しいなと思っているの」のいうセリフが切なすぎた。

PMのほうがよっぽどunfairな状況だ。

なんならPMはunfairではなく自分のミスだと本気で思っている。

「自分が契約する際にオーサーシップについて交渉し忘れたからオーサーシップはないのよ。私って本当に抜けているところがあるから、自分でも惜しいことをしたと思う。」

「別にいいのよ。私はアカデミアや研究のバックグラウンドがないし、今後も必要ないから。」

怒りしかわかない。これは詐欺だ。

何も貢献していない人がミドルオーサーに入るのも問題だけど、入るべき人をミドルオーサーに入れないのは大問題です。

 

皆さんご安心ください。

出勤最終日、PMはこの研究に関する全ての論文にミドルオーサーとして名を連ねることが確定しました。

ぎりぎり間に合ってよかった。当然の権利ですよね。ここでは割愛しますが、そのサポートができて私は本当に嬉しい。

 

長いブログになってしまった・・・。

一応、名誉のためにいうけれど、元指導教官はダメなところいっぱいあるけど、根が悪い人ではありませんYO!

では。